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言技は、その呼び名通り“ことわざ”の意味を基盤とした異能力である。その関係性が影響しているのであろうということしか解明されていないのだが、“言技”と“ことわざ”は共鳴する。そのわかりやすい事例が叶の持つ辞典であり、言技を持つ者が辞典を手に取ると、そのことわざの項目が光を放つのである。
“梅の下”にランク付けされた言技は、性格にのみ作用しているものと未発現のものがほとんどである。性格に絡むタイプなら何とか見定めることができそうであるが、未発現は調べようがない。そこで活躍するのが、ことわざ辞典というわけだ。
大介は、事故以降のランク付けで“桜ノ上”という評価を下されて以降、辞典に触れたことがない。触れたくないと言った方が正しいのだろう。忌々しい言技の説明文しか書かれていないのだから。
ならば、何故叶の母は大介に辞典を手に取るよう勧めたのか。やはり単なる嫌がらせなのか。判断に困った大介は、叶へそのことを打ち明けてみた。
「母がそんなことを?」
「あぁ。もう一度自分の言技と向き合えとか、そういう意味かな?」
「いえ、ひょっとすると……ともかく、持ってみて」
手渡された辞典を、大介は少し躊躇いつつも受け取る。すると、叶に反応していたページが光を失い。代わりに別のページが淡い輝きを放つ。色や光り方も、人によって若干だが変化する。
光っているページを広げると、そこに現れるのは案の定“飛んで火に入る夏の虫”。何度も繰り返し頭に叩き込まれたその意味は、読まずともわかる。
「……あの時のままだ。やっぱり、おばさんは戒めとして俺に」
「待って! ……大介君、よく見て!」
叶に指摘され、辞典に目を戻す。そして、大介も叶の反応の意味が理解できた。
光は、一つではなかった。
――別のページが、微弱ながらも光を放っていた。
◇
言技には先天的なものと後天的なものがあり、その多くが後者である。発現時期として目立つのは小学生から高校生までの学生期間であるが、勿論それ以前やそれ以後に発現することもある。――叶の母が発現したのは、あの事故の日以降だった。
言技“千里の馬は常に有れども、伯楽(ハクラク)は常には有らず”。本来の意味は有能な人材は多々いれども、それらを見出し力を十分に発揮させる指導者は中々いないという意味。この意味に乗っ取り叶の母が手にした能力は――言技を見抜く目。
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