―其ノ伍―

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 大介に言わせれば、その誤解はまんざらでもない。叶ほどの美人なら、鼻高々で「コイツ、俺のハニーなんだぜ?」という顔で街を練り歩くのも悪くない。一つ問題があるとするならば、ただ単に恥ずかしいということだ。  自分が照れていることを隠すように、大介は話題を振る。 「その、も、目的地はこの辺なのか?」 「うん。あ、ほらアレ。あのホテルだよ」  カップルらしき男女が手を繋ぎホテルを目指すとなるとピンク色な妄想が頭に浮かぶのはもっともであるが、叶の言ったホテルとは本日自分一人が泊まるためのビジネスホテルのことでである。何分急な入学だったので、一週間ほどはホテルに泊まりながら学校に通うということであった。  ならば何故大介が共にいるのかというと、護衛のようなものである。役に立つかどうかは別として、男が一緒に歩いているというだけでもナンパ等の危険くらいは遠ざけられる。  この街の治安は今、正直安全とは言い難い。大介は実際に少年ギャングから袋叩きにあっている分、叶の身の安全をより一層心配した。叶がまた傷付くところなど見たくないし、別の街で一人暮らしすることを認めてくれた彼女の両親の信頼も失いたくない。  いざとなれば、焼身覚悟で敵に突っ込んでみせる。そのくらいの意気込みで、大介は叶の護衛についた。実際は、ただ平和的に街を歩いただけに終わったのだが。  ちなみに照子にはシャギー、きずなには育がそれぞれの帰宅に付き添っている。一番安全なのは、きずなであろう。 「それじゃあ、ちょっと待っててね」  ホテルに到着したところで疑似デートは終了。叶は大介の手を放し、自動ドアをくぐり中へと消えていった。一度荷物を置いてから、そのまま共に大介のアパートへと向かう予定となっている。  というのも、叶の歓迎パーティーが催されるからだ。言い出したのは勿論きずな。大介のアパートという場所を選択したのもきずなである。理由としては、一人暮らしをしている大介のアパートならば多少羽目を外しても問題ないことと、きずなと照子とシャギーがアパートの場所を知っていること等が上げられる。  狭いことや汚いこともあり最初は拒んでいた大介であったが、きずなが彼の耳元で「畳の下のパラダイス」と呟くと一瞬で許可が下りた。その後で大介は、大勢の客を招くことでパラダイスをより危険に晒してしまうことに気づいたが、時既に遅しである。
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