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「友人がアナタに寄せる信頼度は生半可なものではない。九千人を超える友達というよりは、九千人を超える“奴隷”。わかりますかぁ? アナタの言葉一つ、メール一通、電話一本で九千人を超える人間を好きに動かせるぅ。アナタを仲間にするということは、九千人を仲間にすることに等しいのですよぉ」
この時、きずなはひしひしと感じた。市と自分との“友達”の概念は全く異なるものだと。
市が距離を詰めてくる。片手に持っている鎌は夕日を反射してギラつき、きずなの恐怖心を煽る。
「さぁ、お友達になりましょう。お得意の言技を使ってくださいよぉ」
「……嫌」
きずなは見上げる形で、市を睨みつける。
「私、アナタとは友達になりたくないっ!」
「……ふぅん」
市の顔から喜びに満ちていた表情が消え失せる。一変し冷めた顔で右手を掲げると、何もない空間に突如としてカマイタチが出現した。市の言技“鼬の道切り”である。
それを見た瞬間から、きずなは小刻みに震え出した。きずなはカマイタチを知っている。それは野球部バッテリーの絆と、自分から友人三人を断ち切った元凶。今更ながら、きずなは芦長がカマイタチの使い手はシックルズのリーダーではないかと推測していたことを思い出した。
「この子に見覚えはありますよねぇ? ですが、私とは初対面。本当は一度路上でジャグリングをしている時に遭遇しているのですよぉ? まぁ、刈ったので覚えていないでしょうがぁ。ですが、この子は別です」
市は己の言技を肩に乗せ、流暢に語る。
「私の記憶は消せても、このカマイタチを見たという記憶は消せない。最近では“何も切らないカマイタチ”なんて都市伝説になっているらしいですねぇ。しかし、何も切らないとは笑わせます。大切な繋がりを切られていることに気づかないとは滑稽ですねぇ」
「……アナタ、おかしいよ」
「まともな人間がギャングなんてやりませんよぉ。さぁて、私の言技はアナタにとって天敵です。その恐怖は一度味わっていますよねぇ?」
カマイタチが市の肩の上で両腕の鎌を擦り合わせる。
「なるべく早くイエスの返事をくださいねぇ。私も利用価値のあるアナタの繋がりを、あまり刈りたくはないですからぁ」
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