―其ノ陸―

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 テープが示すのは“危険が起こる位置”。一見逃げ場のないような攻撃であっても、大介の目があれば僅かな隙間を縫い回避することが可能なのである。  奇策を制された加賀屋は、怒りに身を任せ新たな金棒を大介に投げつけた。また単調な攻撃に戻ったかに思われたが、今度はその直接投げつけた金棒が大介へと向かう途中で瓦礫へと変わった。  無駄なくかわそうとしていた大介にとって、目前で無数の瓦礫へと戻ったのは誤算であった。いくらテープで攻撃箇所が見えようとも、目前で攻撃範囲を変えられては流石に動体視力が追い付かない。  鉄くず。木材。石。鉄板。コンクリート片。ありとあらゆる硬い物が大介の体を直撃する。しかしそれは、今の大介にとっては避けようが当たろうが同じであった。  未だに能力の全貌はハッキリとしないが、複言“心頭滅却すれば火もまた涼し”の力で大介は痛みを感じない上に怪我もしないような状況にある。現に横殴りに降る瓦礫の雨を浴びた後も、大介は痛みもなければ怪我もしていなかった。  ここで大介自身、避ける必要がなかったことに今更ながら気づく。攻撃が当たったので有効だと感じたらしい加賀屋は、もう一度金棒を投げてきた。案の定、それは空中で瓦礫へと形を戻す。  相手の金棒は、利用しようとすれば瓦礫に戻される。そうなると大介に遠距離からの攻撃手段はないので、距離を詰める必要があった。ならばと、大介は自ら赤いテープの先へと突っ込んだ。危険に自分の意思で飛び込んだことにより、体を包む炎はさらに燃え上がる。  腕を顔の前でクロスさせ、瓦礫の乱射を突っ切る。切り抜けた先で視界に映ったのは――金棒を大介の横っ腹に向けて振り抜く、加賀屋の姿。  いくら痛みがないとはいえ、瓦礫の雨に突っ込む際反射的に大介は顔をガードした。危険感知は視覚からしか得られないのに、自らそれを無効化して特攻したのだ。  おそらく、何処かで高を括っていたのだろう。どんな攻撃でも自分には効かないと。未だ把握しきれていないその力を、無敵だと過信した大介のミス。  ガードすら間に合わなかった大介は、自分が不良にやったようにバトル漫画の如く吹っ飛ばされた。  弧を描き地面に落ちてから二三度転がるも、大介はすぐに立ち上がる。複言を発現して以来、初めて感じた痛みであった。
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