―其ノ陸―

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「ぶっちゃけな、警察では対鬼神用の一斉逮捕作戦が練られてたんだよ。シックルズと違って鬼神はアホみたいに好き放題やってたからな。海沿いの廃工場がアジトだってことも掴んでる。あとは実行に移す日を決めるだけと聞いていた」 「なら、やはり警察に」 「だから、無駄なんだよ」芦長は不衛生な頭をポリポリと掻く。「鬼神対策の本部は、数日前解散になったんだ」  その言葉の意味を、三人は中々呑み込むことができない。現に今日誘拐事件までやらかしているグループを野放しにしたまま、何故警察が手を引くのか。  シャギーと照子は実際に加賀屋の言技“鬼に金棒”の力を目の当たりにしている。だが、それでも逮捕できないほどの強力すぎる脅威ではないと思える。 「何でですか?」 「捜査関係者が全員“鬼神に関することを忘れた”からだ。ガキ共、最近流行ってる“何も切らないカマイタチ”って都市伝説知ってるか?」 「知ってるわ。うちの学校の野球部に被害者がいるもの」 「その都市伝説になった言技の使い手が、おそらくシックルズのリーダーだ。外見も性別も身長も、この俺ですら何一つ掴めない。あくまで推測の域だが、そいつが警察の人間の鬼神に関わる記憶を片っ端から切り捨てた。慎重にも程があるってんだよな。当然、警察に資料は残ってるんだろうが、記憶にない資料なんてのは誰の目にも触れられねーよ」  お手上げとでも言いたげに、芦長は両手を上げる。しばしの沈黙を挟み、シャギーが声を発した。 「硯川さんの誘拐事件を普通に通報するのは駄目なのか? 鬼神の一斉逮捕は取り止めになったとしても、実際にこうして誘拐事件があり、その先に鬼神の姿があれば警察は新たに彼らを認識して逮捕に動くだろう?」 「その通りだ。ただし、ビジネスホテルで入念に現場捜査をしてからだがな。奴らの居場所は、さっきも言ったがおそらく海沿いの廃工場だ。警察が鬼神関連の記憶を失った今となっては、一番安全な場所だからな。仮に俺達が嘘をついて『誘拐犯が廃工場に逃げ込んだのを見ました』と伝えたとしよう。それで動いてくれる警官の人数は高が知れている。返り討ちに遭って終いだ」  解決策の見えてこない論議。先程から探偵がグダグダと語るだけで何の進展も見られない。最初に痺れを切らしたのは、育であった。 「アンタ一体何しに来たのよ!?」
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