―其ノ陸―

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 もっともな意見であった。芦長は語るだけで、解決する気が更々ないように思えてならない。この後も平行線を辿るようなら、これ以上の会話に意味はない。早々に打ち切り、もっと有意義な行動に移るべきである。 「俺にできることは推理だけだ。インドア派なんでね。戦闘とかは期待するな。俺がここに来たのは、伝えるためだけだ。ここにはまだいないガキにな」  三人の目が一気に白けた。これまで頭の良さを披露してきた名探偵を、馬鹿を見るような目で見る。その反応に、これまで脱力系クールを気取っていた芦長の表情が崩れた。 「あ、え? 何だその反応は。もうじきここに来るんだろう? 綱刈きずなが」 「やはりその考えだったか。残念だよ。残念だな。残念極まりない」シャギーはあからさまな溜息をつき、芦長に伝えた。「きずなも事件に巻き込まれた可能性があり、連絡が取れないんだ」  芦長の顔色が、見る見るうちに青ざめていく。子供達相手に語っていた時の余裕は、もう微塵も見られない。  今起こっていると思われる何らかの事件。この事件における一番の痛手は、綱刈きずながいないことである。実のところ、彼女さえいれは叶の誘拐事件は早急に解決が可能なのだ。きずなはその“秘策”を有している。  しかし、彼女はいない。ひょっとすると叶同様被害者側になっているのかもしれない。きずなの“秘策”を期待して颯爽と現れた芦長は、自分の得た情報をきずなに教え、あとは丸投げにするつもりで来ていた。だが、肝心のきずなはいない。  よって、取り乱した。 「ふ……ふははは! 俺を騙そうったってそうはいかんぞガキ共! いるんだろきずなー! この押入れの中か?」  芦長がパニック状態で押入れの戸を開くと、中からゴロンとガムテープでぐるぐる巻きにされた人間が出てきた。  まさかのミイラ登場に甲高い悲鳴を上げ、後ずさる芦長。しかし、何がどうしてそう思ったのか、そのガムテープの中身がきずななのではないかという考えに行き着いた。 「オイきずな! ふざけてる場合じゃねーんだよ間抜け!」  ミイラの顔の辺りに巻かれたガムテープを引き千切ると、現れたのはきずなの童顔ではなくハーフのイケメンフェイス。栗栖リオンである。 「やぁ、コンニチハ」 「誰だお前っ!?」
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