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そうして、リオンは再び押入れの中へと戻された。これ以上いい大人が我を忘れている姿など見たくないので、シャギーが口を挟む。
「落ち着け。落ち着こう。落ち着くのだ。きずなに頼る以外で方法はないのか? アナタは探偵なんだろう?」
「……少し取り乱したようだ。スマン。策を練るからちょっと待て」
言うなり芦長はノートパソコンを取り出し、己の言技を発現した。発現時の集中力は凄まじいもので、芦長の生み出すピリピリとした空気に一同は彼が言技を解除するまで一言も言葉を発することができなかった。
時間にして、僅か八分。パソコンを閉じ軽く溜息をついてから、学生達と向き合う。その表情は、ここにやって来た当初と同じく自信に満ち溢れていた。
「付け焼き刃の策だが、何とか捻り出せた。協力するかしないかは、聞いてから判断してくれ」
◇
壁面に空いた無数の穴からオレンジ色の夕日が射し込む廃工場。見方によっては味のあるいい情景なのかもしれないが、中で不良が五十人近くうろついているとなると、話が別である。
そこに場違いな少女が一人。髪色は赤く、低い身長を厚底ブーツでカバーしている。そんな少女が、恐れず堂々と不良達の間をすり抜けるように進み、一番奥で待つピエロのような男の元へと向かっていく。
「叶ちゃんは何処?」
「そこにいますよぉ」
片手で小型の鎌を弄びながら、市がもう一方の手で廃工場の一角を指さす。そこにいるのは大柄で金髪の男・加賀屋と、縄で手を後ろに縛られている叶の姿があった。
距離が離れているので正確にはわからないが、少なくともきずなの目には暴行を受けた様子はないように見えた。その代わりに――顔の包帯が消失している。
それが叶に対する嫌がらせなのか、万が一にも逃げ出せないようにするための対策なのかはわからない。ただ一つ確かなのは、友達の心が今まさに傷つけられているということだ。
きずなはギュッと拳を握り締める。
「要求通りに私は来たよ。叶ちゃんはもういいでしょ?」
「まあまあ、そう焦らずにぃ。携帯電話はきちんと言った通りにしてきましたかぁ?」
「うん。言われた通り、ここに来る途中で全部アナタの仲間だって名乗るバイクの男に渡してきたよ。何なら、服脱いで証明しようか?」
「駄目ッ!」
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