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悲痛の叫びを上げたのは、それまで魂が抜けたかのように俯いていた叶であった。初めて目にする顔の火傷。それはやはり、お世辞にも綺麗とは言い難い。しかし、きずなは叶の顔を見ても驚いたり嫌な顔など一切せず、ただ一言「大丈夫だよ」と笑って見せた。
「いえいえ、そこまでしていただかなくても結構ですよぉ。大切な大切な沢山のお友達のうちの一人を人質に捕っている以上、アナタは決して裏切らない。そうでしょう? 綱刈きずなさん」
市の言うことは的を射ていた。他の何よりも友達を重んじる彼女にとって、友達を人質に捕られるということは己の心臓を握られることに等しい重みがある。本来の狙いであるきずな本人を狙わずにわざわざ叶を誘拐した理由の一つがそれである。
他にも理由は上げられる。三歩歩けば友達に出会うようなきずなを誘拐するとなると、思いもよらぬところで彼女の友達に目撃される可能性がある。その点は市の言技がある限り、大きな問題ではない。それでも、存在感の強い彼女を堂々と誘拐するよりは自分の意思で来てもらった方が安全だと市は考えた。
そうして代わりに誘拐されたのが、叶である。
この街に来たばかりで知り合いも少なく、親とも離れているのでいなくなっても騒ぐ者は少ない。人質として最適な要素を、叶は不運にも持ち合わせていた。
「叶ちゃんを解放してよ」
「それはアナタがもう一つの要求を呑んでからですよぉ」
「……何?」
「簡単なことです。綱刈きずなさん」市は要求を突き付ける。「私の仲間になってください」
身構えていた割には小さな要求だなと、きずなは正直なところ思った。もっと血も凍るような恐ろしいことを強要させられるのかと思ったが、目前のピエロ男の要求は「仲間になってください」とのこと。
きずなの中では、仲間と友達はイコールで結ばれる。市は自分と友達になりたいのだと受け取ったきずなは、表情を和らげた。
「それは……私と友達になりたいってことなのかな?」
「友達ぃ? くくっ、まぁそうですねぇ。友達ですよ友達ぃ。私とアナタが仲間になれば、シックルズはより大きくなるぅ」
話す市の声は、実に生き生きとしている。野望を見据える目はギラギラと輝き、口元は三日月の如く湾曲している。
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