―其ノ陸―

15/35
前へ
/35ページ
次へ
 ◇  大介のアパートにて、復活した芦長が短時間で組み上げた解決策は次の通りである。  まずは、探偵としてのコネで多少の融通が利く警官二名にパトカーでアパートまで来てもらい、それに乗り廃工場へ向かう。到着次第芦長がギャングを騙すハッタリをかます予定だが、効果は正直期待できない。本命は一度鬼神の三人を撃退している照子の言技“穴があったら入りたい”である。  現場にて全員の目を引き付けてから、照子を恥ずかしがらせる。手法としては前回同様スカートめくりが効果的ということであった。ギャングの面々が穴に落下しもがいている隙にきずなと叶を救い出し、直ちに退散する。以上が付け焼き刃の策である。 「要となるのは村雲だ。だからお前にだけはついてきてもらいたい。だが勿論成功する保証はないし、危険はデカい。強要はしないが……どうする?」 「行くに決まってます。二人を助けるためなら、怖いのも恥ずかしいのも耐えられます」  照子の返答に迷いはない。芦長は頷くと、他の面々へ目を向けた。シャギー、育、そして状況が状況なので解放されたリオンを見渡す。 「お前らは帰ってもいい」 「冗談はよすんだ。照子のスカートを捲るのは僕の役目だよ」 「照子サンが行くのなら、例え地獄の果てまデモ!」 「肉弾戦ならこの中の誰より強い自信があるわ。女だから帰れとか言うんじゃないわよ」 「……ま、そうなるわな」  芦長は軽く溜息をつくと、不衛生な頭を掻き毟った。彼ら彼女らがついてくると言うのは、尋ねる前からわかっていた。きずなの友達は、自分自身も含めて皆が例外なくそう答える。  理屈ではない。理由など聞くのは野暮だ。きずなは皆を愛し、皆はそれに答える。ただそれだけのこと。叶のことも頭にないわけではないのだが、行動に移る上できずなに対する想いの方が多くを占めていることは事実であり、今日出会ったばかりの叶との繋がりと比べると仕方がないことでもある。  不意に耳へ飛び込んできたのは、パトカーのサイレン。芦長がコネで呼んだパトカーが二台、表に到着したようだ。 「さて、行くか」 「待って。待つんだ。待ってくれ」シャギーが口を開く。「今から向かうのは廃工場だろう? きずなの携帯電話のGPSはパチンコ店を示しているんだが」  シャギーの疑問は皆が感じていたものであった。ただ、今までは質問するタイミングが見つけられなかったのだ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

167人が本棚に入れています
本棚に追加