―其ノ陸―

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「それなら俺もさっき調べた。ありゃフェイクだ。用心深いシックルズの頭が、GPSなんて定番の盲点に気づかないわけがねぇ」 「なら、瀬野君を迎えに行きましょう! 彼は二人が心配過ぎて、早合点してパチンコ店へ向かって行ったんです」 「なるほどな。駆けていく方向が廃工場とは逆方向だから放っておいたが、そりゃ好都合だ。ほっとけ」  芦長の言い草に気分を害した育が、ムッとした顔で反論する。 「ほっとけって何よ。瀬野だって自分なりに二人を助けようと」 「アイツの言技じゃ助けらんねぇだろうが。それに今、どうせあのガキは取り乱してんだろ? そんな状態で現場に連れて行ってみろ。怒り狂って焼身自殺するぞ」  探偵の意見はもっともであった。大介を連れて行くのは危険である。他ならぬ、大介自身が。ならば、連れて行くべきではない。いなくても作戦に支障はない。寧ろ、いる方がマイナスに働く可能性もある。 「それに、寄り道している時間はない。こうして話をしている時間も惜しい。行くぞ」  その言葉を最後に、一同は大介の部屋を出てパトカーへと乗り込んだ。一台には芦長、シャギー、照子。もう一台には育とリオンが乗り込む。先に出発したのは、芦長達の車両。アパートの駐車場を出て右折するパトカーの後を追う形で、育達の車両も出発した。 「待って」  ここで助席の育がハンドルを掴み、運転手である警官の右折を阻む。 「待ってってキミ、急いでいるんじゃないのか?」 「その前に寄ってほしいところがあるの。駅前通りの“ベータ”っていうパチンコ屋なんですけど」 「委員長サン。それは先程あの探偵サンに止められたでショウ」 「わかってるわよ」  育は自分でも腑に落ちないような顔をしていた。不満を我慢して嫌な方を選択したような、そんな表情が見て取れる。育が要求した大介を迎えに行くという選択は、彼女の性格に反している。言技の性質上堅苦しいほど真面目な彼女ならば、無駄のない選択をするのが当たり前。大介を拾ったところでメリットはなく、デメリットのみが大きくなる。  己の言技を捻じ曲げてまで、育は大介を連れて行く方を選んだ。何故ならば、わかるから。自分もきずなの友達だから、きずなの大切に思いもがく気持ちがわかるから。ましてや、大介には叶とも深い繋がりがある。きっと自分達よりも苦しみも心配も大きい。そんな彼を一人空回りさせておくのは嫌だった。
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