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仲間外れは、自分だって嫌だから。
「お願いしますお巡りさん! この通りっ!」
勢いよく頭を下げた反動で、育の豊満な胸が揺れる。いくら正義を掲げる警察官とて、男は男である。若い男性警官の鼻の下が伸びるのを、リオンは見逃さなかった。ここぞとばかりに後部座席からこっそりと、警官に耳打ちする。
「委員長サンの胸はFカップデス」
白い歯を見せグッジョブとにこやかに親指を立てる警察官。ちょうどそのタイミングで、育が頭を起こした。目前には親指を立て微笑む警官。自分の頼みが受け入れられたと勘違いしても不思議ではない。
「パチンコ屋に寄ってくれるんですね! ありがとうございます!」
まさか「アナタの胸のサイズを聞いて親指を立てました」とは言えない警察官に、断る術などなかった。
◇
パチンコ屋の前で息を整える男子高校生が一人。瀬野大介である。結構な距離を走ってきたため、大分息が上がっている。
「……ここに綱刈と硯川がいるんだ」
溢した独り言は、自己暗示のようにも聞こえた。恥ずかしいほどに迷走した後にたどり着いた場所。ここにいるという確信があるというよりは、ここにいると信じたいというような心境に大介はある。
服装は学生服であったが、そんなことを気にかけている余裕はない。大介は二人を救うべく、パチンコ店へと足を踏み入れた。
店内は雑音に溢れていた。ジャラジャラうるさいパチンコ玉の音。大当たりを祝う派手な電子音。途方もない数の台が生み出すその音は、未成年である大介を大いに驚かせた。
台と台との間の通路を進み、叶ときずなの姿を探し始める。学ラン姿の少年に不審な目を向ける客が何人かいたが、注意を受けることはなかった。しかし、店員に見つかればそうはいかない。客からの視線で初めて自分の姿が浮いていることに気づいた大介は、学ランを脱ぎ腕に掛け気休め程度の変装をした。
人と台と音との間を次々とすり抜けていくも、二人の姿は未だ見当たらない。パーティーをすっぽかして二人がパチンコを打っているはずもないのだが、他に手がかりもないのでこうして地道に探す他ない。
GPSの情報が間違っていたのか。はたまた、パチンコ店の奥に監禁でもされているのか。大介はもう何をどうすればいいのかわからなくなっていた。
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