―其ノ陸―

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 ここにはいる気配がない。GPSを信じてパチンコ店の奥へ強行突破するか、一旦アパートへ戻るか。  一体何が正解で、何が間違っているのか。火達磨になってでも助け出すと吐いたくせに、火達磨になる機会すら与えられない。笑えないほどの無能っぷり。空回りしているだけの役立たず。  大介は思う。きっと日陰虫のままでいれば、こんな思いはせずにすんだはずだと。きずなとは他人。叶とは仲直りしないまま。シャギーや照子とも、勿論繋がりはない。  この事件は、きっと大介が繋がりを持とうが持つまいが起きていただろう。もし日陰虫のままならば、他人事で済んだ。あくる日学校でその事件を小耳に挟み、不憫だなと一瞬思う程度で済んだのだ。  でも、知ってしまった。  どうせ救えもしないくせに、友達を作ってしまった。 「どうすればいい」  大介は呟く。――次の瞬間には、吠えていた。 「硯川ぁ! 綱刈っ! いるなら返事をしてくれッ! 俺だ! 瀬野大介だッ! 助けに来たんだよお前らを!」  周囲から様々な視線が突き刺さる。驚く者。軽蔑する者。笑う者。怒る者。店員が向かっている姿も見え、大介は逃げようと踵を返した。――そこで、声をかけられた。 「あっれー? この前の桜ランクじゃん」  聞いたことのある男の声。三席ほど前で煙草を吹かしながら台を打つその男は、先日大介を袋叩きにした加賀屋の部下のうちの一人であった。  その男の足元には、見覚えのあるものが置いてある。――それは、きずなの通学鞄。  ここで大介は、GPSが犯人に見抜かれていたことにようやく気づいた。そして、犯人グループが鬼神に関係していることも。  きずなの消息不明に気づきGPSを辿って来たものを釣る罠。邪魔しようとする者を誘き寄せ、必要ならば始末する作戦。大介は滑稽なほど見事に嵌められた。  敵意が向けられ、男の周囲に『KEEP OUT』のテープが展開する。店に入る前にテープが現れなかったのは、大介が“入店するだけ”なら危険ではなかったからである。今更になってテープが見えたところで、何の役にも立たない。 「……綱刈と硯川は何処だ」 「言うわけねぇだろ。まー、表出ようや。遊ぼうぜ」
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