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遊ぶとはつまり、大介をぶちのめすことを意味している。ここに二人がいない以上長居は無用であるし、大介では彼の口から居場所を吐かせるのは難しい。それに――火達磨になるべきなのは、今ではない。
大介が取った行動は、逃走であった。通路を駆け抜け左折しようとしたところで、黄色いテープが三本現れ道を封鎖した。その向こうから、こちらに迫る別の不良が一人。
体を捻り右に逃げようとしたところで、さらにテープと別の不良が見えた。引き返そうとしたところで、最初に遭遇した男の蹴りが腹に入る。
「――ッ!」
腹を押さえ蹲る大介の両脇を持ち、最終的に総勢七名となった不良達が外へと引きずり出す。周囲は騒ぐだけで、助けてなどくれない。
パチンコ店と隣接するビルとの間に連れて行かれた大介は、周囲を完全に不良達に囲まれた。逃げ場はなく、助け出したい二人の居場所もわからないままだ。
「上からの命令なんだよ。悪く思うなよ? サンドバック君」
きずなの鞄を片手に提げた男が、早速拳を振り上げた。大介が言技の関係上手を出せないことを知っているので、何の躊躇もなく殴り掛かる。
拳から自分の顔面までが、黄色いテープで結ばれる。危険感知の能力が殴られる箇所を示しているのだ。大介は伏せるように男の拳を交わすと、包帯に包まれた右拳を握り締め男の顎目掛けて突き上げる。
――が、それを黄色いテープが遮断した。
攻撃に転ずるという行為は、自ら危険に飛び込むことと判断される。いくら相手の攻撃が見えようとも、大介は反撃する術を持たない。反射的に拳は顎へ到達する前に動きを止め、代わりに相手の蹴りが胸部を打ち抜いた。
「図に乗ってんじゃねーぞ桜ランクが!」
先程の蹴りで地面に転がった大介を、逆上した男が何度も蹴りつける。大介は身を庇うように丸くなり、苦痛の表情で耐えていた。
痛みと無力を噛み締める。ここで燃えれば、何人かに重度の火傷を負わせることくらいは可能かもしれない。でも、それを実行したところできずなも叶も救えない。文字通りの無駄死にである。
本当は、もっともな理由をつけて燃えるのを拒否しているだけなのかもしれない。
燃えるのは怖い。皮膚を溶かし肉を焦し、最後は骨をも焼き尽くす。酸素も吸えず熱さと激痛で悶え苦しみながら、自分は死ぬ。誰かを救おうとテープを破れば、大介はそうなるのだ。
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