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きずなと叶の静止を一蹴し、大介はついに黄色いテープが目と鼻の先にあるところまでやって来た。包帯に巻かれた右手を伸ばすと、テープはわかりやすい変化を見せた。
――黄色から赤へ、色が変わったのだ。
その変化を目にするのは、大介の人生で二度目となる。一度目は叶に火傷を負わせたあの日、テープを突き破る寸前でその色は黄色から赤へと変化してた。その時は気づかなかったが、書かれている文字も変化している。
“KEEP OUT”から“DANGER”へ。“立入禁止”から“危険”へ。
どうやらこの変化は、警告を無視して突き破るという迷いのない意思を持った時のみ現れるものらしい。いわば、飛んで火に入る夏の虫からの“最終通告”。だが、色が変化したことはそれ即ち大介の意思が固まっているという証明に他ならない。黄色が赤になった程度で、揺らぎはしない。
右手が赤いテープを掴む。――瞬間、発火。
マッチの灯火程度だった火は包帯というよく燃える素材に着火したということもあり、瞬く間に右腕全体を包み込む。
きずなの叫びが聞こえる。
叶の泣き声が聞こえる。
大介は自らに問いかけた。右手は熱いか?
「んなもん知るか。どうでもいい」
戦えそうか?
「んなもん知るか。ぶっつけ本番だ」
――彼女達を、守れそうか?
「そうだよ。大事なのはそこだ」
必ず助ける。それだけ心に誓っていればいい。雑念は無用。熱さも痛みも恐怖も不安も、必要ない。
――日陰虫から、飛火夏虫へ。
言技“飛んで火に入る夏の虫”。
――発現。複言“心頭滅却すれば火もまた涼し”。
◇
芦長探偵を始めとするきずなと叶救出の要となるメンバーを乗せたパトカーは、警戒のため廃工場の前面道路を見張っていた不良達により足止めを食らっていた。
大介を乗せたパトカーはたまたま狭い別ルートから廃工場に侵入したので芦長達の二の舞にならずにすみ、先に到着してしまうということになってしまったのである。
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