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「言ってくれるじゃねぇかァ……死に晒せ、欠陥品」
睨み合いが続くこと数秒。燃焼に耐え切れず廃工場の一部が崩落する音を合図に、炎と鬼が激突した。
◇
瀬野大介が慣れない力を振るい戦いを繰り広げている中、同級生達はただ傍観しているわけではなかった。廃工場の外側から叶の近くに周り込み、ツギハギだらけの壁をまだいいところなしのリオンがタックルでぶち抜き中に侵入した。
「どうだい照子サン? 今のボクはさぞ勇ましかったでショウ?」
「何馬鹿言ってんのよ。簡単に破れそうなくらい朽ちてたじゃない。私でも楽勝だったわよあんなの」
「委員長サン。ボクは照子サンに感想を求めているのデスガ」
育とリオンがそんな会話をしているうちに、シャギーと照子はいち早く叶の元へと到着した。
「大丈夫か!?」
「社木君! 村雲さん! 来てくれたの?」
「育さんとリオン君もいますよ。待っててください。すぐに解きますから」
二人掛かりで手首と足首に巻かれたロープを解きにかかる。その間ずっと叶が俯いたままであるので、シャギーは手を休めることなく問いかけた。
「どうした? 怪我でもしてるのか?」
「い、いえっ。そういうわけじゃないの……」
ここでシャギーは、その理由に気づいた。叶の顔には今、火傷痕を隠す包帯が巻かれていない。彼女は今、顔を見られるのが嫌なのである。シャギーは立ち上がり学ランを脱ぐと、叶の頭に被せてあげた。
「気の利かない男で悪いね。よければそれを使ってくれ」
「ありがとう……ございます」
学ランに隠れているため、礼を言った叶がどのような顔をしていたのかはわからない。その声は悲しそうにも聞こえたが、同時に嬉しそうにも聞こえた。
程なくしてロープを解くことに成功し、シャギーと照子に支えられながら叶が立ち上がる。
「歩けそうですか?」
「うん。私はもう大丈夫。だから、きずなさんを」
「そうしたいのは山々なんだが……」
シャギーが難しい顔でポツリと呟く。叶は頭に被った学ランから顔の右半分だけを覗かせ、きずなの姿を探した。そして、見つけた。周囲には大介から逃げ出した不良が集まっており、下手に近づける状況ではない。
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