―其ノ陸―

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 今の照子は、その時と似たような状態にある。何せあと少し駆け出すのが早ければ、金棒が直撃していたのだ。最悪、死んでいた。腰が抜けるほどの恐怖。それはスカート捲り程度で“恥ずかしさ”に切り替えができるほど小さなものではない。  役に立てない以上、残る理由もない。シャギーは照子の体を抱き上げると、「頼む」と大介に言い残しその場を離れた。育、リオン、叶と合流し、突き破った壁の穴から外へと逃げる。 「すまない」  探偵達の元まで戻る道中、シャギーは自身がお姫様抱っこという形で抱えている照子へ謝罪の言葉を述べた。震えていた照子は、涙目を擦りながら首を傾げる。 「な、何がですか?」 「僕はキミに頼り過ぎていたようだ。他に方法がないともっともな理由をつけて、怖い思いをさせてしまった」 「それはシャギーが謝ることじゃないです。私は望んでここに来たんですから」 「素晴らシイ! 流石ボクの照子サンッ! 清純で可憐で、そんな中にも真の通った強さを併せ持ツ! 大和撫子サムライガール! 日本の誇り村雲照子サン! これはもう」 「うるさい」  育に尻を蹴り飛ばされ、リオンはペラペラと忙しなく動いていた口を止めた。 「というか、瀬野のアレは何なのよ! 燃えても平気そうだし、人を漫画みたいに殴り飛ばしてるし、何がどうなってるの? わけがわからないわ!」 「……多分、複言が発現したんだと思う」  育の不満交じりの疑問に答えたのは、彼女に肩を借りて歩いている学ランを頭からスッポリと被った叶であった。学ラン少女の口から飛び出した“複言”というワードに、一同は驚きを隠しきれない。 「複言……複言、え? 瀬野君って複言使いだったんですか!?」 「うん。昼休憩に図書室で初めてわかったことなんだけれど。複言の言技は“心頭滅却すれば火もまた涼し”です」 「なるほどな。なるほどね。なるほどなるほど。読んで字の如く、火に耐性の付きそうな言技だな」 「しかし、それならあの馬鹿力は何なんダイ? 何にせよ、ただ火に耐える能力じゃなさそうダネ」 「ありがたいことに間違いはないわ。もう瀬野に任せる他ないもの。信じましょう」
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