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「これでよし」
「鬼だね。鬼だな。鬼だろう」
「ガムテープのアイデアを実行したアンタに言われる筋合いないわよ」
「ところで、遅いですねきずなちゃん」
言い争いになりかけた二人を止めたのは、きずなを気にかける照子の声であった。気にかけている相手がリオンではなくきずなである点が、何気に残酷である。
そもそも、何故きずなの護衛係に割り振られていた育がシャギー・照子のペアと共に大介のアパートを訪れたのか。それには勿論理由がある。単純にきずなから「先に行ってて」と言われたからである。
仮にも護衛である以上、その一言できずなをほったらかしにするわけにはいかない。真面目な育はそう食い下がったのだが、結局は口の達者なきずなに言い包められてしまった。最初からシャギー達と待ち合わせして買い出しをする予定だったので、そこへは一人で出向くこととなり、現在に至る。
「きずなは何かサプライズでも企んでいるのかな?」
「そんなところでしょうね。誰かからの電話を取ってすぐ後に『先に行ってて』って言われたから、案外瀬野辺りと何か企んでるのかも」
「それなら安心ですね。そうでなくても、きずなちゃんなら街中に友達がいるので最初から護衛も必要なかったのかもしれません」
「サプライズを仕掛けるとしたら、やはり硯川さんへ対してだろう? 僕達が蚊帳の外というのは少し寂しい気もするね」
シャギーが気持ち程度に寂しげな顔をした時、扉の開く音が聞こえた。やけに慌てた様子で部屋へと足を踏み入れた人物は――大介。血眼になって自身の家中を見渡す彼の目には、シャギーも照子も育も映っていない。
「硯川は……硯川は何処だッ!」
突然の大声に、三人は揃って目を丸くする。汗だくで息も絶え絶えな様子を見る限り、大介がここまで走ってきたことが理解できた。
「そ、それはこっちの台詞よ。叶さんの付き添いはアンタの役割でしょ? というか瀬野、アンタきずなさんと一緒じゃないの?」
「今は綱刈より硯川だ! ここに来てないのか? オイッ! どうなんだよッ!」
「キャッ」
大介から乱暴に肩を掴まれ、育がらしくない女性の声を上げる。そこへすかさずシャギーが割って入り、大介の腕を掴み無理矢理剥がした。
「何をしているんだキミは。落ち着け」
ハッと我に返った大介の目に映ったのは、両肩を抱くような格好で瞳を若干潤ませている育の姿。
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