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「……わ、悪い。ゴメン……」
「べっ、別にいいわよ。怖くなんかなかったし!」
強がる涙目の育の頭を、照子が優しく撫でた。育は恥ずかしそうに照子の手から逃れて、自分の涙目を誤魔化すように大介へと尋ねた。
「それで、何かあったの?」
「あ、あぁ……硯川が消えた」
消えた。大介から発せられたその言葉を、三人はすぐには呑み込めない。“はぐれた”や“見失った”ならばわかる。だが、どうにもそれらとは意味合いが違う。大介の慌て方の異常さがそれを裏付けていた。
「消えたって……どういうことですか?」
照子に尋ねられ、大介は頭を抱え俯きながら語り始めた。
ビジネスホテルの前で、大介は叶が出てくるのをずっと待っていた。時間にして、約一時間。女の子は支度に時間がかかるとはいっても、流石に遅すぎる。大介はホテルに入り受付で叶のことを尋ねてみた。
聞き出せたのは、叶が一時間前にエレベーターに乗ったというところまで。流石に部屋番号までは教えてもらえない。慣れない携帯電話を操作して叶へ初めての電話をかけてみるも、繋がらなかった。
胸騒ぎがした。それが勘違いであることを願わずにはいられない。それから五分ほどロビーをうろうろしていたが、ただ待つということに耐えられなくなり受付の隙を見計らいエレベーターに乗り込んだ。
部屋番号どころか何階かもわからないので、二階から順に探す。しかしながら、表札がかかっているわけでもないので探しようもない。ヤケクソで「硯川!」と呼びかけてみたが、何の反応もないので大介は階を移動した。――異変は、次の三階で見つかった。
エレベーターを降りたところに、落し物が二つ。一つ目は部屋の鍵で、二つ目は――長い包帯の束。
その二つを手に、大介はフロントへと戻った。エレベーターの前に落ちていたと鍵を渡すと、その鍵が叶の部屋の物だと教えてくれた。その場で叶の部屋に電話してもらうも、案の定出ない。
包帯を手に持つ大介の表情から、ホテルの係員はただ事ではないことが起こっていると悟ってくれたのだろう。人数を集めて叶の捜索を開始してくれた。
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