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しかし、大介は捜索の結果を聞くより先にホテルを出た。ここにはいないと本能が告げていた。一体どんな理由があれば叶が自ら包帯と鍵を捨てて姿を眩ませるというのか。自分からその行動に走った可能性が限りなく0に近いのならば、別の可能性で考える方が理に適っている。――つまりは、誰かに無理矢理そうされたのだ。
一通り大介から事情を聞き終えた後、歓迎パーティーのムードは一蹴されていた。ビニール袋に入ったままのパーティーグッズは、部屋の片隅でその存在感を失っている。
「それは……誘拐ということか?」
「わからない。仮にそうだとしても、誰が何の目的でやったのか……」
大介はポケットに突っ込んでいた包帯の束を取り出し、キツく握り締める。己の無力さを恨み、恥じるように。
「……ひょっとして、それってきずなさんがいないのとも何か関係があるのかしら?」
育の疑問に、大介の目が大きく見開かれる。ここに来た時、育は自分に対してきずながどうこう言っていたことを唐突に思い出した。
「綱刈もいないのか?」
「てっきり瀬野と何か叶さんへのサプライズでも考えてるのかと思ってたんだけど……違うわよね。今電話を」
「もうかけてます」
携帯電話を育が鞄から取り出すより先に、照子はきずなへと電話をかけていた。聞こえるのは一定のリズムが刻まれる呼び出し音のみで、赤髪少女の元気な声は一向に聞こえてこない。五回ほどかけ直してみるも、結果は同じであった。
「どどどっ、どうしましょう。け、警察に」
「落ち着いて照子さん。まだ事件に巻き込まれたと決まったわけじゃないわ。それに、証拠もないんじゃ警察も動いてくれないわよ」
「きずなの居場所ならわかるさ。わかるよ。わかるとも」
「え?」
シャギーの言葉に照子と育は「そうだった!」と声を上げたが、大介だけは首を捻った。不思議そうな顔で携帯電話を取り出し、シャギーは大介へ向け口を開く。
「キミは聞いていないのか? きずなは友達には携帯電話のGPS情報を公開しているんだよ」
「ジーピーエス……って何だ?」
「どうやら携帯電話には疎いようだね」
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