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携帯電話の位置情報がわかれば、そこにきずながいる。きずながそれを友達に公開しているのは、近くにいる時は友達に声をかけてほしいからという単純な理由からである。個人情報に敏感な現代で位置情報を年中曝け出せるのは、きずなが本心から自分の友人達を信じているからこそである。
シャギーは携帯電話を操作し、きずなの位置の特定にかかる。
「えーと……あった。二丁目の”ベータ”って店だ。おかしいな。この店はパチンコ店なんだが……って、大介君ッ!」
今にも玄関から飛び出そうとしている大介の手を、シャギーが慌てて掴み止めた。
「放せ社木! 綱刈がそこにいて、硯川も一緒にいるかもしれないんだろッ!」
「落ち着くんだ。冷静になれ。仮に何らかの事件だったとしても、キミのその言技では」
「黙れェッ!」
大介はシャギーの手を力一杯振り払い扉を開ける。
「綱刈は俺を救ってくれた恩人だ。硯川は二度と傷つけられない大切な友達だ。……俺はどちらも失いたくない。苦しむ姿なんて見たくない。いざとなれば、火達磨になってでも助けてみせる」
言葉を残し、大介は駆け出す。それを止めようと外に飛び出したところで、シャギーは見知らぬ男性と激突して尻餅をついた。
「いででっ……あ、すみません」
「全く、威勢のいいガキだな。社木朱太郎」
知らない男にいきなりフルネームを呼ばれ、シャギーはギョッとした。直後に大介のことを思い出すも、その姿はもう追い付くには難しいところにまで遠退いている。
「申し訳ないが、退いてもらってもいいですかね?」
「そういうわけにはいかん。アイツはほっとけ」
触れるとベトベトしていそうな不衛生さの伝わる黒髪に、顎のラインに沿うように生える少量の髭。煙草をくわえ、対して寒くもないのに長いコートを着ている。そんな怪しい男を、女の子が二人(押入れに男子一人)いる部屋の中へと黙って上がらせるわけにはいかない。
「待った。待つんだ。待ってくれ。……貴方は誰ですか?」
「まー、知らんわな。よーし、よく聞けガキ共」
男は部屋の中へ向け、声を張り上げる。
「俺は芦長十一という探偵だ。硯川ってのがヤベェ。黙って俺の推理を語らせろ」
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