―其ノ陸―

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「えーと……確か、右手に包帯を巻いていましたよ」  またしても最近調べた男子高校生と特徴が一致した。  誘拐した犯人はシックルズと鬼神。誘拐されたのは硯川叶。そして、彼女を瀬野大介が探している。後者二名は、芦長が慕うきずなの友達。  芦長は早々に仕事を切り捨てるという判断を下した。口では否定しようとも、確かに自分はきずなの言う通りあしながおじさん染みているかもしれないと失笑する。それから一旦部屋へと引き返すと、ノートパソコンを立ち上げて言技を発現させた。  言技“一を聞いて十を知る”。僅かな手掛かりから、常人では中々たどり着けないであろう深い情報を短時間で探り当てる能力。一時的に脳を活性化させる、探偵にはうってつけの力である。  時間にして、僅か五分。とりあえず必要な情報を得た芦長は、ノートパソコンのみを専用の鞄にしまいホテルを出た。滅多に利用しないタクシーを捕まえ、行き先として大介の住むアパートの住所を告げた。  本日大介のアパートにてパーティーが行われていることは、先程の言技発現時に探り当てている。共に何処かへと向かう途中、何らかの理由ではぐれた人物と落ち合うために向かう場所となれば、それは共通する目的地が一番である。今回の場合は、大介のアパート。故に芦長は大介が自身の家に向かったのだろうと推測し、その後を追った。  その理由は、大介を落ち着けるため。というのは二の次で、本当の理由は“叶を救うためにはアパートに出向く必要がある”からであった。  ◇ 「かくして俺はここに颯爽と現れ、煙草を燻らせながら歩を一歩一歩進め」 「そこまで聞いたらもういいわよ」  畳の上に腰を下ろし語る芦長の口を、育が止めた。その表情は険しい。叶が誘拐されたと聞かされたのだから、無理もない。 「たたたっ、大変なことになりました……どうしましょうシャギー」 「やはりここは警察に」 「そいつは無駄だな」  芦長はシャギーの提案を否定すると、灰皿を探すような素振りを見せ、最終的には自分の携帯灰皿で落ち着いた。
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