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『コドモ……いるの?』
『ああ』
『奥さんも』
『ああ』
『なんで黙ってたの』
『君が聞かないから……』
そんなの屁理屈だって言おうとしたけど、精算機が吐き出した小銭の音で口にするタイミングを失ってしまった。
『黙ってたことは謝るよ。ごめん。でもあんまり可愛かったから。嫌なら別れるよ。どうする?』
『そんなこと聞かれても』
『みんな女の子は籍に拘るけど、籍があっても冷めたらつまらないよ』
『そうかもしれないけど』
『世間で言う不倫だけど、俺は君をちゃんと愛する。不倫じゃなくて婚外恋愛。ならいい?』
何となく言いくるめられて、現在に至る。月に1、2度、彼はうちに来ては私の体を愛でる。そうこうして2年、不倫にしては長続きしてると思う。私は陰の身だからと1年目のイベントは全て諦めた。無理だって自分に言い聞かせた。でも2年目になると心臓に毛が生えるのか堂々としている。というか、少しぐらい拗ねてもいいかなって。だって彼のシャツはいつものりが効いてて袖口も綺麗で、鞄にはいつも空の弁当箱があって。奥さんに愛されてる癖に私とも関係したいだなんて狡いと思う。だから小さな意地悪をする。誕生日、クリスマス、バレンタイン、ホワイトデー、イベントの夜に来て!って拗ねる。来ないなら別れるからと駄々をこねる。でも結局は彼は毎回接待だ残業だと理由をつけて私のところへは来ないのだ。
明日も会社……。布団を顔まで被せて目を瞑る。誰か私に魔法を掛けてくれないかとコドモ染みた願いを呟いた
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