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差し出すと彼は唇を突きだしてヒューと口笛を吹いた。
「総務部総務課、南雲結衣。不倫娘」
「読み上げないで! しかもそんなこと名刺に書いてませんけどっ」
「じゃあ泥棒猫」
「もっとヒドいじゃない」
「じゃあ何なの。奥さんコドモいる人と付き合ってるって」
私は何も言い返せず、黙って奴を睨みつけた。奴は内ポケットから自分の名刺入れを出した。そして私に差し出す。
「広報部企画課、森田泰裕」
奴は椅子を引いて座り、箸を取る。私も座ってその名刺をポケットに突っ込んだ。確かに彼と同じ部署。奴は大盛のご飯をガツガツと食べる。まるで茶碗毎飲み込んでしまいそうな勢いだ。何故知ってる、何故バレた……彼が普段から隙だらけってこと?
なら。彼の会社での素行を知ってる筈だ。
「ねえ、広報って接待多いの?」
「人に寄るかな。俺は結構あるけど、星野課長なんかはほとんど無いよ」
「昨日は?」
「確か午後は……姿が見えなかった。直帰だったと思う」
直帰。
「ふうん」
「何。課長の素行を探ってんの」
「そういう訳じゃないけど」
私はちらりと課長のいる方を見た。私に目配せをしてにこりと笑う。嘘付いて自宅に帰ったのに何故ああも笑えるのか私は溜息をついた。
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