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しかし、晋也は無駄に逆境に強いタイプで、こういう時ほど燃え上がるタイプでもあった。
恋愛に妥協はない。
晋也は、それをスローガンに掲げ、就職始動室のドアを叩く。
「失礼します!」
晋也は、返答も待たずに部屋へ入ると、そこには三年一組担任の郷田京が晋也を待つようにして、足を組んで座っていた。
「遅かったな」
郷田は、そう言ってゆっくりと立ち上がると、奥の棚から白い紙を数枚取り出した。
(もしかして、俺のために求人票を何枚か取っといてくれたのか!?いや、でもそりゃ有り得ることだよな。だって、俺って命懸けで世界守ったんだしー…)
晋也は、そんな都合の良い妄想を浮かべながら、机の上の白い紙に目を通す。そして、晋也は瞬間驚愕した。
「えっ…!?」
思わず、声を詰まらせ目をパチクリとさせる晋也に、郷田が「どうした?」と声を掛けた。
実際、晋也の予想は良い意味で当たっていた。しかし、問題は求人票の内容だ。
まず、正社員雇用の求人が一つもなく、どれも臨時社員叉は派遣社員の雇用ばかり。実質、社員とは名ばかりのアルバイトと同じような求人票ばかりだった。
更に、晋也は福祉科である筈なのに、福祉科の求人は一つもない。工場と接客、そして一つは接客と言えど、コンビニのアルバイトだった。
晋也は、声を震わせながら、郷田に尋ねた。
「な…なんですか。これ」
「求人票だ」
「…あの。僕のクラスって、一応福祉科ですよね?」
「あぁ。それがどうした」
「ふっ…。福祉の仕事が一つもないって、どういうことですか?」
晋也は、壊れそうな自身の心を必至に宥め、最大の譲歩を喫しながら、郷田に疑問をぶつけてみる。郷田は、いつもと変わらぬ表情で、頭をポリポリと掻きながら、晋也が質問した『そのこと』について話し始めた。
「来てるのは来てるぞ。だが、お前が受けれる職場は一つもない」
「どういうことですか?」
「資格が要るのさ」
郷田は、そう言って胸ポケットから新たな求人票を取り出すと、晋也の前に提示した。そこには、福祉施設・青空広場と書かれてあった。
「こういうのを待ってたんですよ!郷田先生!!」
出された瞬間に、晋也は紙を取り上げ、求人票を食い入るように見つめた。
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