6人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、その気持ちが最高に達したとき、気が付けば大助は晋也の元へと飛びつこうとしていた。
「あうーーッッ」
その行動に驚愕したのは、勿論晋也である。
まさか、自分の胸に向かい飛びついてくると思わなかった晋也は、避けようとして変に身体を捻ってしまい、大助にそのまま抱きつかれ、地に落ちる。その時に、腰から地面に落ちてしまい、晋也は腰を強く打ち付けてしまった。
ゴキッッ…!!
腰の砕ける音が聞こえ、晋也は痛さよりも腰が砕けたという事実に青ざめた。
晋也がそんな現を抜かしている頃、飛龍さおりはいつもの道の河川沿いを一人寂しく歩いていた。
季節は秋の終わり。肌寒さが身に染みて、人肌恋しい季節となってきた。
(陽が紅いー…)
さおりは、河川から見える真っ赤な夕陽に、思わず立ち止まる。
(何も覚えていないけど、…あの日何かあったような気がしてならないのよね)
最近、さおりは自分自身に違和感を感じていた。自分はそこに居るのに、まるでそれが他人のような感覚。
真っ赤な夕陽を見ると、その感覚を思い出せるような気がして、さおりは今月に入って何度も夕陽を眺めては、それを思いだそうと立ち止まっていた。
しかし、思い出そうとしても、肝心な記憶が曖昧で、結局何も思い出すことができず、さおりは胸に何かがつっかえたままだった。
(でも、確かにあの夕陽は『あの時』みたいなー…)
夕陽を眺めながら、さおりは『あの時』を連想する。しかし、その『あの時』がさおりから出て来ることはない。
「人の記憶は曖昧で、人の記憶は事実さえも書き換える。自分の記憶が本当なのか、それを疑えるようになった貴女は大したものよ」
その声は、聞き覚えのない声だった。さおりは、ハッとなり思わず後ろを振り返ると、声の主はにこりと笑った。
「こんにちは。いや、もうこんばんはになるのかな」
大きな瞳に真っ直ぐに落ちた前髪は、どこか真面目な印象を見る人に与えていた。ショートヘアに二の腕に付いた筋肉は、運動部にでも所属しているのだろうかとさおりを連想させた。
(誰だろう。見たことない人だけど)
随分と馴れ馴れしく話し掛けてくるので、知り合いなのかと振り返れば、顔を見ても全く知らない人で、さおりは少し困惑していた。
最初のコメントを投稿しよう!