困難を極める就職活動

17/21
前へ
/306ページ
次へ
もしかしたら、自分の記憶が定かではないときに出逢った人なのかもしれない。 さおりはそう思い、とりあえず会釈した。 「そんなに畏(かしこ)まらなくても。貴女と私は今日初めて出逢ったんだし。 あっ!そうなると、畏まらなくちゃ駄目なのか。ん~…。人間関係って難しいなぁ」 その真面目な印象とは裏腹に、女の表現は随分と軽いものだった。 腕を組み、う~んと唸る女に、さおりは訳が分からず質問する。 「あっ…、会ったことがないのに、貴女はどうして私にそんな親しげなの?」 言ってしまったあとで、さおりは「あっ」と声を漏らし、口を両手で塞いだ。その光景を見て、女は声を挙げて笑い出す。 「アハハハハ!『相変わらず』だねぇ、その強気な発言は!」 そう言いながら、女はゆっくりと近付いて来ると、笑ったまま続けて喋り始めた。 「そうだねぇ。正確に言うなら、私と貴女はもう出会ってるんだよね。でも、貴女にとっては未来で私にとっては過去の話。だから、辻褄(つじつま)は合わないってワケだ」 さおりは、女の言っている意味が、心底理解できなかった。 今、同じ場所に立っている人間に、過去も未来もない。話している瞬間は現実で、時は平等にしか進んでいかない。 辻褄が合うも合わないも、目の前の女性の発言がおかしいだけだとさおりは思った。 「と、思うでしょ?」 さおりがそう思考に整理を付けたところで、女はさおりに笑みを向けたまま、話し掛けてきた。さおりは、話し掛けられたことに吃驚し、肩をピクリと動かした。 「でも、現実はそうじゃない。私と貴女はもう随分前に出逢ってるし、現実だけが真実ってのも如何なる話と思うけどね」 「だから!何を言っているの!?」 さおりは、今度は自分の意志で声を張り上げ、目の前の女に問い質した。 質問した言葉は簡素なものだったが、さおりが質問したいことはもっと沢山あった。 どうして私を知ってるの? どうして私の考えていることが解ってしまうの? もしかして貴女は、私の記憶の『何か』を知ってるの? 今にも泣き出しそうな顔をするさおりに、女は困った顔をし目を背けてしまった。 「困ったなぁ。私、その顔に弱いんだよなぁ。 でも、これ以上時間を『ループ』させる訳にもいかないから、問答無用で貴女の中味を探らせて貰うわね」
/306ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加