序章

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それは、遠い未来の話。 木々は枯れ、大地は荒れ果て、人々はそこら中に転がっていた。 平和と呼ばれた時代が今は懐かしいと、泥水を啜(すす)りながら号泣する老人はそう嘆いた。 人は、同じ過ちを繰り返す。そして、人の欲望は果てしない。 人が起こした戦争は、人の手により終結し、そして世界は滅びて人は死に絶えた。 なのに、人はまだ、『それ』を求める。 「人類を死滅させることだけでは飽きたらず、今度は過去まで殺す気か…!」 老人は、頭に手を付け、狂ったように笑い始めた。 「滑稽だー…」 そして、笑い終わったかと思うと、その場に倒れ、地に伏せる。 荒れ果てた大地に身を寄せ、老人は思った。 (人の業がこれほど酷く惨いなら、儂は『アレ』を作るべきではなかったのかもしれない) そして、そのまま目を閉じた老人は、静かに息を引き取った。 「すまない。絵里子」という、言葉を残して。
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