たくさんの「好き」よりも

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「ごめん、遅れて」 翌週、お昼からの打ち合わせに、 片桐さんが遅れてやってきた。 「始める前にちょっといいかな。 仕事のことじゃないんだけど」 「あ、はい。どうぞ」 正面に腰掛けた片桐さんが、 少し迷った後に切り出した。 「こんなのお節介なんだけどさ。 先週の金曜日、 成瀬さん見たんでしょ? …戸川君を」 「…はい」 私の動揺があからさまだったことが恥ずかしくて俯いた。 「あの時はすみませんでした」 「いや、謝らないで。 そうじゃなくてね。 今日も元気ないから、 彼と話せてないのかなと思って」 この土日、戸川君から電話はなかった。 会わなくなってからも、出張から帰ってきたら電話をくれていたのに。 それがいつもと違うから、 余計に私から電話できなかった。 マンションで鉢合わせした、 崎田さんの時のトラウマもある。 今も一緒にいるんじゃないかとか、最悪なことばかりを想像してしまって、どうしても無理だった。
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