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「せんせ、行くまでケーキは冷蔵庫に入れておきますね」
大きな箱を紙袋から取り出しながら言って、浅田はそうっと丁寧にそれを冷蔵庫に入れた。
クリスマスイブ。
終業式を終え、俺は例年のように夜から弟の貴司と過ごすことになっていた。
いつもと違うのは、今年は浅田も一緒だってことだ。
「貴司くん、プレゼント喜んでくれるかなぁ」
浅田は、ソファに座る俺の隣に人ひとり分くらい開けて腰かけると、ふふっと笑いながら独り言みたいに言った。
どこにも連れて行ってやれないことを申し訳なく思う反面、貴司と過ごすクリスマスを楽しみにしてくれている彼女に嬉しくてつい頬が緩む。
「プレゼント、何にしたの?」
「内緒です」
「…教えてくれないの?」
「はい、秘密です」
嬉しそうにはにかみながら、浅田は立てた人差し指を唇にあてて俺を見た。
イタズラっぽく輝かせながら俺を覗き込む黒目がちな瞳に、胸が甘く痺れて愛しさが込み上げる。
俺は心の中で、ため息を吐いた。
…ほんとにこの人って、イチイチ可愛くて……困る。
きっと、彼女は自分の動作のひとつひとつが俺の心を揺さぶることに気づいていない。
今だって、抱きしめたい衝動を必死で抑えてるんだけどな。
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