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「…ふーん」
興味なさげに返して、俺は気を紛らわせるためにテレビの電源を入れた。
画面の中では、ニュートリノとタイムマシンについて物理学者らしき人物が熱く語っている。
毎週録画して観ている物理学の番組の再放送だ。
一度観た内容だな、とぼんやりと眺めていると、浅田が身を乗り出すように画面を見つめていることに気づいた。
瞬きもせずにじっと画面を見つめる横顔に思わず見とれてしまう。
抑えていた衝動がまた湧き上がり、俺は抵抗を諦めてふっくらした陶器のような頬に手を伸ばした。
「…物理、興味あるの?」
「ひゃっ」
急に触れられてビックリしたのか、浅田は大きな声を出して体を揺らした。
彼女は恥ずかしそうに頬をすりすりと摩りながら、またテレビ画面に視線を戻し、
「物理はわからないんですけど、この…理論的にタイムマシンが可能って、どういうことですか?」
「ああ、相対性理論をベースに考えると物体は光速に近づけると時間経過が遅くなるからね、ニュートリノが光の速さを超えたということは、時が止まった状態で質量のある物質が動いてるってことだから…」
「……」
浅田がぎゅうっと眉を下げた。
可愛いな、と思いながら笑いを堪える。
「要するに、光速で動いてる物質は未来に行けるわけ」
「じゃあ、私たちも未来に行けるんですか?」
「いや、光速移動する自体、人間には無理だからね。
移動すると、動くスピードに比例して移動している物質にかかる力もどんどん増えるから……まあ、要するに今のところ、無理ってこと」
「…なあんだ」
少し残念そうに言って浅田は頷いて、唇に手を当ててちょっと考える仕草をした。
そして、俺を覗き込み、
「先生は行けるとしたら、未来か過去どっちに行きたいですか?」
ドキリ、と鼓動が跳ね上がった。
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