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古い傷が疼くような気がした。
一瞬、鮮明に記憶が蘇りそうになって、指先がヒヤリとする。
俺は手をグーパーしながら、心の中でため息を吐いた。
過去か未来か。
考えるまでもなく、答えは決まっている。
ーー過去だ。
戻れるなら、あの頃に戻ってやり直したい。
父の死も、少女に戻った母も、自分勝手で弱かった自分も。
やり直せるなら、と何度後悔しただろう。
いつまでも過去に囚われたままの自分にうんざりしながら、こちらをじっと見つめる深い黒色の瞳を見つめ返した。
「…どうかな、浅田は?」
「んー、…未来かなあ」
その答えにホッとして、俺はもう一度手を伸ばして浅田の頬をするりと撫でた。
過去に囚われることなく前を向いている彼女をいつも眩しく思う。
「…もし、過去に戻って、やり直せるとしても?」
けれど、意思に反して出た俺の声は少し震えていた。
浅田が不思議そうな顔で俺を見上げる。
透き通るような綺麗な瞳で見つめられ、心の中を見透かされそうでドキリとした。
「…あ、まだ時間があるから、DVDでも観ようか」
誤魔化すように言って立ち上がり、テレビ横のラックに向かう。
…まだ、やり直したいと思うなんて。
心にモヤモヤとしたものを感じながら、俺は浅田に気づかれないように小さくため息を吐いた。
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