The world without you.

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「ーー 耀司っ」 体を揺さぶられて、ハッと目を覚ました。 DVDを観ていて、いつの間にか寝てしまっていたようだ。 額に手を当てて、俺はぼんやりする頭を持ち上げた。 「…ああ、ごめん。そろそろ行こうか」 言って顔を上げて、ビクッとした。 目の前にいたはずの浅田はいなくて、代わりに竜之介が俺を覗き込んでいたからだ。 「…え、なんでおまえ、ここに…、 浅田はどこ?」 「はは、何言ってんだよ。寝ぼけてんの? ほら、授業終わったぞ」 目を三日月にして笑う竜之介の言葉に周りを見回すと、そこは自分の部屋じゃなく教室だった。 …なんだ、これ? 教室、…学校…? 混乱する頭を押さえてもう一度竜之介を見ると、高校を卒業して10年程経つのに、彼は学ラン姿だった。 しかも、なんだかずっと若いような気がする。 「…竜之介、おまえなんでそんな恰好…、それに学校…」 「…おい、大丈夫か?」 竜之介がさっと真顔になって、もっと顔を近づけてきた。 それを避けて、またぐるりと周りを見回す。 黒板に書かれたまま残る数式。 窓から見えるすっかり葉の落ちた背の高いカエデの木。 懐かしい風景。 …教室だ。 俺の通っていた、高校の教室。 ふと目を落として自分も制服を着ていることに気づく。 …制服。 「…夢でも見てたの?」 「ん、…ああ、夢か…」 違和感がすうっと溶けていく。 混乱していた思考が正常に戻っていくのがわかる。 うたた寝して夢を見ていたんだ。 …ああ、そうだ。 ここは俺の高校の教室で、俺は高校生。 ーーそう、何もかもを失くす前の、俺だ。
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