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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 「祭」
凍てついた 夜を透過し煌めいて 街を彩る冬の祝祭
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
今年も残すところ1ヶ月余りとなった寒さが増す京都。
恫子は仕事を終えて帰路につこうとしていた。
仕事帰りにいつも歩く京都駅周辺は、11月に入るとあっという間にクリスマスカラーに彩られ始めた。
ショウウィンドウのディスプレイ、隣接するモールの華やかな飾りつけはクリスマスまでの日をカウントし始め、浮き足立つ買い物客で連日賑わう。
そのモールが恫子の勤務先だった。
11月の半ばには高さ22mの巨大ツリーが点灯し、多数の電飾と共に京都駅ビル全体が美しく彩られた。
雑踏を抜けて帰路に着く恫子は、きらびやかな光を見ないように俯いて歩いた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 「褪」
冷えた手は 光遮り色も消す イルミネーション褪せる街路樹
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「今年もまた、忙しいばかりの季節なのかな……」
思わずこぼれた独り言とため息は誰に届くことなく消えていく。
駅の階段をかけ上がり発車間際の電車に乗った。
車内の温度で曇ったガラス越しに、滲むイルミネーションが遠ざかる。
恫子はゆっくりと肩の力を抜いた。
(修治はどうしているだろう……今夜も遅くまで仕事に追われているのだろうな……)
物思いに耽るうちに電車は恫子が降りる駅に着いた。
いつもの改札を抜けて駅前から数分、静かな小路の奥に恫子が暮らすアパートがある。
鍵を開けて中に入いり思わず出たため息。
(癖になりそう……)
苦い笑いを浮かべキッチンテーブルに鞄を置いた途端、携帯電話の着信音が響いた。
慌てて取り出した携帯を強く耳に当てた。
修治の声が届いた。
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