第一章 胎動する異常と日常の狭間で

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「ピンチ」 見た目とマッチする、低く渋い声で久木真鯛は言う。 「我ら、風紀委員長と遭遇。罰則確実」 「おいおい、まさか逃げちゃったのかよ。無難なとこで捕まっとけば良かったのに。アイツ、時間が経てば経つだけ闇金みたく罰則をプラスしていくぞ」 「だからピンチ。超ピンチ」 久木真鯛のしゃべり方は少々独特だが、夕霧緋色は気に入っていたりする。 このしゃべり方と外見と恥ずかしがり屋な性格のせいで友達はおろか、雑談できる人間さえ少ないらしいが、正直周りの奴等は見る目がないと思う。 本当の久木真鯛はこんなにも楽しい奴だというのに。 「はいはい。俺も一緒に行ってやるからさっさと学園に行くぞ。今なら、まぁ、死にはしねえだろ」 「……我、窮地……」 「そーゆーのいいから、さっさと行くぞー」 「腕、引っ張るの禁止。心の準備が」 「真鯛の準備待ってたら日が暮れるっつーの。腹ぁくくれって」 どうせ三人目の『友達』である東上光秀辺りに付き合ったせいで安藤蜜に目をつけられたのだろう。 なら、今頃はあの馬鹿の罰則中だろう。 アイツの罰則が終わる前に自首すれば、そこまで酷いことにはならないはずだ。 ギラギラと光る太陽を憎々しげに見据えながら、夕霧は巻き添えを食わないためにはどうすればいいか考えていた。 もちろん、顔には出さないが。
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