第一章 胎動する異常と日常の狭間で

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「この、クソ野郎が……やんのかコラ」 「怒るなってウサギが」 「あ?」 「僕ちん寂しいのー死んじゃうよー」 「よくわかった。喧嘩売ってんだなそうなんだな」 そんな訳で殴り合い開始。 基本的に『友達』には遠慮のない彼らは他人が見ていないところでは結構簡単にこうなったりする。 そんないつもの光景を菓子パン片手に久木真鯛は眺めていた。 「ほどほど、進言」 「アホかッ。この野郎は今日こそブッ潰す!!」 「吼えるなって構ってちゃん。きちんと構ってやるから、さ!!」 ゴンドゴバンガギッ!! と鈍い音が連続するが、きちんと顔面や急所は外していたりする。 別に本気で喧嘩しているわけではないから当然ではあるのだが。 「質問」 久木真鯛は何ともなしにそう呟けば、ハチャメチャに拳やら脚を振り回している馬鹿どもが反応した。 「なんだよ? ナンパの方法でも知りてえのかっ」 「よく言うぜ。女の子に誘われたって適当に嘘ついて断るヘタレがナンパの方法なんて知ってるわけないだろうにさ!!」 「放課後まで付き合うほどの仲じゃねえだけだ」 「酷いな。そういうとこを直せば桃色の学園生活が待ってるってのに」 話が脱線し始めたと感じた久木真鯛は修正のために声をかける。 「明日」 「あ?」 「何が?」 首をかしげ、一時停止した馬鹿どもへ、久木はこう言った。 「職場、体験」 その言葉を聞いて。 夕霧と東上は大体のことを理解した。 七月一〇日からの三日間には職場体験という名のタダ働きがあるのだが、その行き先はランダムで決められてしまうのだ。 そして。 見た目に反してかなりの小心者の久木真鯛の行き先は。 「無理。ファミレス、絶対無理」 この男に接客業を割り当てた先生どもは何を考えているのやら、と馬鹿二人は呆れていた。 二重の意味で無茶ぶりだとどうして気づかないのか。
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