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ヤクザものの映画にでも出てきそうな男が小動物のように震えていた。
これには馬鹿二人も無視はできない。
正直、頑張れとしか言えないのだが、それでも声はかけてみる。
「ま、まぁまぁ。あれだぜ、そう難しく考えるなよ。あれだ、俺のほうが終わったら顔出してやるし、な?」
「そうそうっ。何事もやってみれば意外にすんなり終わるものだって、な?」
「……うん……。ありがと」
涙目で見られても困る。
何だかんだ言いながら、何もできていないのだから。
「ああ、もうっ。情けねえなちくしょう!」
この台詞は久木に対してのものではないだろう。
夕霧緋色のことだ。自分を責めているに決まっている。
「落ち着けって。まさかとは思うが、職員室襲って行き先変えろとか喚いたりしないよな?」
「それだ!」
「それだって馬鹿か! こら緋色ッ、暴走するな!」
相手が理不尽な要求を突きつけてくるクズとかなら止めはしないが、ただ単に平等に行き先を決めただけの先生たちを襲撃するのはやりすぎだろう。
何事にも限度というものがある。
「ッ、離せよ光秀! 俺はやってやるんだ!!」
「モンスターペアレント並みの横暴だって。ほら真鯛だって困ってるだろ」
「我は、でも……」
「迷うな馬鹿っ」
いつの間にか立場が変わっていた。
なぜ、気づいたら、俺が呆れて止める側になっている? なんて考えながら東上光秀はとりあえず夕霧緋色を羽交い締めにする。
「あ、てめ、コノヤロっ」
「暴れるな過保護野郎!」
吐き捨て、東上光秀はプルプル震える久木真鯛へ目を向ける。
「真鯛っ。他人との関わりを完全に断ってもロクなことにならないんだ。ここらで少しは他者に歩み寄れるようになってみろよ、な?」
「でも……怖い……」
「何言ってるんだ。お前はヤクザ相手に喧嘩売るような大馬鹿野郎と友達やってるんだ。世間一般じゃこいつのほうが怖いって」
もちろん、大馬鹿野郎とは夕霧緋色のことだ。
その件はあまり広まっていないため、夕霧緋色が畏怖の目で見られることはないが。
ヤクザとの喧嘩を入院中の夕霧から聞いた時は本気でキレちゃったな、と東上はぼんやりと思う。
一人で無茶して一人で死にかけるなどふざけるな、と。
今度危ないことに首を突っ込むなら、俺も巻き込め、と。
…………どうせ訊きやしないのだろうが。
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