第一章 胎動する異常と日常の狭間で

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3 結局五時間目はサボり、六時間目だけ参加した。 ホームルームも終わり、2ー1の教室では各々が駄弁ったり猛ダッシュで出ていったりしていた。 『じゃあな』や『またね』といったあいさつに軽く返していた夕霧緋色は後ろのロッカーに突っ込んでいたテニス用ラケットを取り出している東上光秀へ声をかける。 「なんだ。今日は部活か」 「今日『は』じゃなくて今日『も』だ。帰宅部のお前らと違って運動部は忙しいの」 その言葉に夕霧の隣に立っていた久木が不満そうに頬を膨らませ、 「人付き合い、苦手だから……」 「うっ。悪かったって。あんまり深く考えるなよ、な?」 「ったく。空気読めよボケ」 「適当に援軍請け負うことで金儲け狙ってた馬鹿は黙っていろ」 久木が帰宅部を選んだのは先の台詞の通り人付き合いが苦手だったから。 夕霧が帰宅部を選んだのはアニメみたいに運動部の援軍を請け負うことで金儲けしようなどと邪な考えから。 その目論みは外れ、未だに部活の援軍なんて話は来ていないのだが。 「んじゃ帰るか。光秀、また明日……は逢わねえか」 「職場体験だしな」 「……我、消沈」 「あーあ。余計なこと言うから真鯛がテンションだだ下がりだぞ」 「うおっ。やっちまった!」 焦る東上へ『我、悪い。気にするな』などと久木が言ってくれたのは善意からだろうが、そんなことを言われたら逆に気にするのが人間だ。 結局見かねた夕霧が『なんか奢れよ。それで詫びっつーことでいいだろ』と言ったことでこの件は解決した。
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