第二章 絶望の分岐点

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「な、なんのことだ……?」 裏ずった声で夕霧は返す。 もちろん、そんな反応をすれば、何かあると喧伝しているようなものだ。 「言ったはずだ。相当後先考えず暴れ狂うと。夕霧緋色という男は『友達』が意識不明だって聞かされて冷静に振る舞えるほど人間できていない。なら何かあるって思うだろ。何かを隠したいなら、それに触れる話題はしないほうがいいしな。だから無関心を装ったってところか? ……どんだけ隠し事苦手なんだか」 「ゴチャゴチャ長げぇんだよ。そんでしょーもねー。隠し事だあ? そんなもんねえ━━━」 誤魔化しのための台詞が途切れる。 夕霧緋色の胸ぐらを東上光秀が片手で掴み上げたのだ。 鋭い痛みが走った。 薔薇のトゲで全身を傷つけたからか。 『それくらいしか損傷がない』ことが、最後の風(?)の異常性を証明しているのだが、そんなことを考えている場合ではなかった。 「っざけんなよ。ふざけるなよ!! それ以上とぼけるなら全部吐くまで殴ってやる!! くそ、成長しないなお前は!! ヤクザ相手に殺されかけた時にこの病室で言ったはずだ。 『一人で無茶して一人で死にかけるなどふざけるな』『今度危ないことに首を突っ込むなら、俺も巻き込め』って!!」 「……光秀……」 「覚えてたか!? 覚えてなかっただろうな! お前はいつもそうだ。勝手に一人で抱えて一人で突っ走って、最後にはお前だけボロボロになって帰ってくるんだっ。格好つけるんじゃないぞ!! たまには俺にも頼れ。分かったか大馬鹿野郎ッ!!」 ああ、やっちまった、と夕霧は頭の隅で考えていた。予想以上に大事になったヤクザとの抗争後も怒ってはいたが、これはあの時以上だ。 (まぁ光秀が怒るのも当然、か。俺だって逆の立場だったらぶん殴ってるしなあ) だが。 いや、だからこそ。 (巻き込めねえよ。あんなもんは俺がやればいいんだ) まるで降参するように肩をすくめ。 表情を穏やかに緩ませて。 「今度は一人で背負ったりしない。光秀に頼る。だからそう怒るんじゃねえよ」 夕霧緋色は。 生まれて初めて『友達』に嘘をついた。
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