第二章 絶望の分岐点

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その後、お見舞い(されるほどの怪我ではなかったが)に来た久木真鯛に『我にも、頼れ』などと脅されたりしたが、それを東上の時と同じように誤魔化しながら退院の準備を終えた夕霧はある病室にいた。 簡素な個室。 そのベッドにはレイチーネが寝ていた。 意識不明……程度で医者は済ませているが、もちろんそんな軽いものではない。 夕霧は重い息を吐く。 『友達』は外で待っているので、遠慮なく表情を歪める。 「あのクソマントめ……つまんねえ置き土産残しやがって」 時間操作は無意味だろう。 防御のために全身を覆った時も、『戻った』のは服だけだったのは、今のレイチーネを見ればわかる。 (『病魔』自体は消せる。が、『病魔』が生物を破壊した結果は消せないってとこか) 無機物ならば『病魔』の破壊も時間操作で戻せただろうが、有機物……というより生物であるレイチーネを蝕む破壊は時間操作では戻せないようだ。 そこまで認識して。 レイチーネがどうなるかを想像して。 時間操作などといった異常で最強で絶対的な『力』を持った夕霧は。 「ふざけんじゃねえぞ!! な、なん、こんな、時間操作だぞ!? 戻せよ、助けろよ! お、俺にはっ、こんなに凄げえ『力』があって、だから、だって『病魔』は消せたじゃねえかッ。異能の力なんて俺の前じゃなんの意味もねえんだよ、だから、だからッッ!!」 淡い光が溢れる。撒き散らされる。 誰にも抗えないはずの強大な『力』がレイチーネを覆うが、戻るのはシーツや病人用の服だけだ。 黒いシミは消えない。 レイチーネは起きてくれない。 「戻れ、戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ戻れッてんだよォおおおおおお!!!!」 そして。 そして。 そして。 「はぁい♪ 女神ちゃん降臨~」 これからの夕霧の運命を決める、そのきっかけが出現した。
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