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ズルズルとベッドの上を移動し、そのまま床に落ちた少女は緩慢な動きで手を差し伸ばす。
「炭酸ジュース……」
「へいへい」
そこらに置いていたジュースを握られせてやる。
ゆらっと起き上がり、指をかけ、そして。
ブッシュウウウ!! と。
空けた瞬間にジュースが飛び出してきた。
「うにゃああああっ!?」
「ははっ。目ぇ覚めたか?」
「こ、こいつぅ! やりやがったなっ」
ポタポタと髪から液体を滴らせる少女は頬を膨らませて飛びかかってきた。
それを適当にいなしながら、夕霧緋色は一応弁解する。
「わざとじゃねえんだって。たださあ、さっきそれだけ落としてさあ、ついでに蹴っちゃってさあ……うん。俺悪くねえな」
「悪いわぁ!」
ポカポカと猫パンチのような打撃が降り注ぐ。まったく痛くなかったが。
「まぁまぁ。とりあえず学園行こうぜ?」
「女の子を濡れ濡れしてしておいて言うのがそれかっ。行かないぞ、絶対行かないからなっ」
「この引きこもりが」
このように言い合えるほどには彼らの仲は良好だったりする。
合鍵までくれるほどだし。
「ったく。とりあえずメシだメシ」
呟き、アンパンを掴む夕霧。
金なら腐るほどあるくせに、食生活はニート同然の少女の常備品だ。
「あーっ。勝手に食べてるー!」
「レイチーネが自分で起きて、自分で学園に通うってならタダメシ狙ったり━━━」
「それは、ヤっ」
「ヤっじゃねえんだよネトゲ廃人!」
ガジッとレイチーネの顔を掴み、アイアンクロー気味に力を入れる。
『にゃにゃにゃにゃにゃあ!!』などと喚く程度には余裕があるようだ。
見た目は美人の類いなのに、と夕霧は嘆息する。安藤蜜と同じく、見た目だけは本当に良いのに。
真っ白なネグリジェ姿のレイチーネは雑誌のモデルでもやればかなりの額を稼げるだろう。
膝まで伸びた手入れの行き届いた金髪や透き通った碧眼がなぜか深窓のお嬢様のような雰囲気を作っていた。
…………実際はオンラインゲーム内でブラッディヴァルキリーなどと呼ばれる廃人なのだが。
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