プロローグ 不変だったはずの日常

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「ねーねー緋色ー」 「んぅ?」 アンパンをかじる夕霧は怠そうにレイチーネへと視線を向ける。 「私、びしょびしょだよね?」 「だな」 「そんな状態だったら風邪ひくよね?」 「だな」 「じゃあ学園行けないね?」 「ねえよ」 「むぅ。引っ掛からなかったかぁ」 「いいからメシ食えって。時間ねえし」 「……私の飲み物は……?」 ほとんどが飛び散った缶を揺らし、レイチーネは言う。 対し、夕霧緋色はたっぷりと中身が残っている缶を掴み、 「いや、やらねえぞ」 「なんでだよぉ! それは、私の、だから!」 「知るか」 「くぅ。横暴だぁ!」 叫び、肩を掴んだレイチーネはガクガクと揺さぶりまくる。 夕霧緋色は酔うだのなんだのということよりも、一緒に揺さぶられている缶を見て、 「しゃーねーなー」 「おっ。観念したかコノヤロー!」 ぱぁっと嬉しそうに笑みを広げたレイチーネは気が変わってしまわない内に缶を引ったくり、そして。 ブッシュウウウ!! と。 デジャヴでも狙っているのかと思うほど同じ展開が繰り広げられた。 「…………、」 「今度こそ俺は悪くねえな、うん」 「こ、このぉ…………っ」 プルプルと華奢な身体を震わせ、レイチーネは金切り声を発する。 「緋色のいじわるぅうううーっ!!」 耳の近くで思いっきり叫ばれた。 ぐわんぐわんと夕霧緋色の頭が反響するような痛みを生み出す。 「うっるせえな! ちょっとは抑えろボケッ」 「緋色が先にいじわるしたんじゃんっ。なんで私ばっかりいじめるんだよぉっ」 「ふむ……。レイチーネが引きこもりをやめるなら」 「絶対、ヤ!」 ぷいっとそっぽを向くレイチーネ。 やはりその程度で妥協するほど柔な引きこもりではないか、と妙な所で感心する夕霧。 「まぁいい。とにかくメシ食ったらシャワーでも浴びてこい。話はそっからだ」
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