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完全に選択を誤ったと夕霧緋色は後悔していた。
シャワーというか風呂場というか銭湯に続く扉の鍵がかけられていた。
ここの扉は見た目は装飾華美なのだが、強度は先の扉とは比べ物にならないほど強固だ。
つまり、ここに籠城されたら手出しできないのだ。
「やーいやーっい。今日こそ私の勝ちだー!!」
勝ち誇った声は扉の向こう側から。
何度か挑発的な台詞を吐いていたが、シャワーを浴びるために奥へと行ったのか、今は何も聞こえない。
夕霧はここには誰もいないことを知っていながら、それでも一応誰も見ていないか周囲を確認する。
安全だと判断した彼は口元を好戦的につり上げる。
「甘いなレイチーネ。無機物なら対処は簡単なんだよ」
言下に彼は両手を扉に押し当てた。
その掌から淡い光が溢れ、強固な扉を包み込んだ。
「時間操作っと」
ガチャンと鍵があく音が耳につく。
時間操作で扉の『時』を数分前に戻したのだ。扉の鍵がかかってない『時』まで戻せば鍵は開くのが道理だ。
これが彼の力。
『異常』なゴロツキの真価。
世界を変えられるほどの力をこんなことに使っているなど頭いい奴等は宝の持ち腐れと非難するだろうが、彼はこれを特別なことに使うつもりはない。
身の丈に合ったことに使うのが一番だ。
力に溺れ暴走すれば、待っているのは身の破滅だろうから。
そんなことを考えながらドタドタと通路を突っ走り、何度か扉を開け放ち、そして。
「俺を舐めるなよ、引きこもりがッ!」
ばんっ!! と。
風呂場の扉まで開けてしまった。
「…………えっ」
ポカンとした表情のレイチーネが迎えてくれた。相変わらず馬鹿デカい風呂場だと現実逃避し始めていた。
だが、状況は動く。
カァっと顔を赤く染めたレイチーネはもちもん裸で。
普段は隠している部分もばっちり見えるわけで。
想像以上に破壊力があって。
沸騰したかのような思考の中、夕霧緋色は思ったままのことを口にしていた。
「うん。最高だな」
返事は平手による連撃だった。
やはり身の丈に合わない力は破滅を招くと、頬が緩むのを抑えられていない彼は頭の隅で考えていると、割りと本気で怒ったレイチーネに説教された。
…………裸で延々と説教していることに彼女が気付いたのは、覗きから三〇分は経ってからだった。
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