第一章 胎動する異常と日常の狭間で

2/11
前へ
/92ページ
次へ
1 結局、今回はレイチーネに言い負かされた。というより、まぁ全面的に夕霧緋色が悪いのだが。 そんなわけで。 九時四〇分を示す腕時計を見た夕霧緋色は半端な義務感から仕方なく学園へ向かうために商店街を歩いていた。 引きこもりを学園に連れて行ける確率は五分五分だったのだが、最近は勝ちが続いていたため、少々悔しかったりする。 (ちくしょう。裸を見られたショックで外出たくないとか卑怯だろ……) その件についてはこちらに非があるため、あまり強くは言えないのをいいことにサボりを強行させられた。 夕霧はレイチーネの出席日数などを思い浮かべながら、 (ったく。結構ピンチなんだがねぇ。ちゃんと進級させてやりたいんだが……) 夕霧緋色はそこそこ仲のいい奴等はいるが、本当の意味での『友達』となるとレイチーネと後二人くらいしかいなかったりする。 その数少ない『友達』のために出来ることならしてやりたいというのが人情だろう。 引きこもりも度が過ぎれば将来に響くこともある。『とりあえずは』三年で卒業するべきだろう。 もちろん例外はあるだろうし、彼女にとっては余計なおせっかいかもしれないが、それでも。 (ま、本当に嫌ならそう言うだろ。そーゆー雰囲気じゃなかったし、このくらいなら大丈夫だよな) 彼女が本気で嫌がっていればわかるくらいの関係は築けているはずだ。 だから大丈夫。レイチーネが頼ってくれた時はきちんと応えてやらないとな、と考えたところで。 ふと、二人目の『友達』が自販機の影にうずくまっているのを発見した。 「なぁにやったんだ、真鯛」 夏休み寸前だからかクソ暑いのは分かるが、スキンヘッド寸前の頭にびっしりと汗をかいていたせいですぐに発見できた。 彼は夏服姿なのだが、ゴロツキ(自称)である夕霧緋色は未だに冬服用の学ランだったりする。 校則では特に禁じられてはいないため安藤蜜に襲われることはないが、どう考えても季節に合っていない格好である証拠に、家を出てすぐの夕霧は汗だくだった。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加