球根

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 一瞬、声をかけた浪人自身もひるんだが、武士のプライドの方が勝った。 「貴様ぁ!ぶつかっておいてその言いぐさはなんだ!」  浪人は、刀を抜くと鞘をほおり投げ、男に向かってギラついた視線を送ってしまう。 「マズイぞ!早くみんな屋内に逃げろ!」  誰が言ったか分からなかったが、次々に人々は吸い込まれるようにして、家の中店の中に逃げ込んでしまった。 「おで、おで、おでにそっだらもんむけるでねぇぇぇぇぇぇぇ」  男は豹変する。オオカミのような歯を剥き出しに、涎を垂らしながら、眼球はカメレオンのように動いていた。 「もののけの類であったかっ!今ここで叩き切ってやる!」  浪人は、刀を大きく袈裟切りに振り下ろすと、真っ赤な華を咲かせる。
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