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男は、浪人の死骸の上で背中を丸めたまま、動かなくなったかと思うと真っ赤な霧が立ち込めた。
「……………………」
人々は目を見張り、恐れおののきながらも、決して目を離さなかった。
正確には目を離さなかったのではなく、離せなかったのだ。何故なら。
「もうこの町は終わりだぁ」
だれかがそうつぶやいた。真っ赤な霧は男の血液である。衣服が破れていた為、背中が良く見えた。
無数にあいた穴が背中には規則正しく並びつつ、順番に赤い霧を吹き出す。
辺りが真っ赤に染まり視界は何時しか遮られるとやがて何も見えなくなった。
時折、骨の砕ける音と肉の裂ける音が霧の中から聞こえて来るが、中の様子は伺えなかった。
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