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「いえ。私は補佐官秘書です。褒めて頂いたことは、素直に嬉しく思います」
職務に忠実な案内役が、当たり障り無く返したはずの言葉だった。
だがそこに重ねられたのは、想定されていない質問。
否、事実。
「すると、ヤマグチ補佐官付きかな? 私服秘書が配置されるのは主席か参謀クラスだよね」
「えっ」
返答に詰まったアンナを見て、ファウラーは片目を瞑って人差し指を振る。
「事情通すぎたようだ。警戒レベルを上乗せされるのはありがたくない。そうだ、俺の担当を貴女にしてくれるよう、大統領に頼んでみるとしよう」
言うと同時、ピタリと止まった彼の歩み。
「案内ありがとう。次回会った時には、食事でも付き合ってほしいな」
第4応接室のドアを背に立ち、背後を計ったファウラーは悪戯っ子のように破顔した。
ここがゴールであることを、彼は知っていたのだ。
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