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車の主は先生で。
「バイト帰りかぁ?」
と聞いてくる。
「はい」
今は、先生に会いたくなかった。昨日の今日だし……。
「クシュン」
「そうかぁまだ父さんは、出張中か?」
なんだか、ぼーっとするよ……。
「はい」
「クシュンクシュン」
くしゃみが、止まらない。
「風邪か?」
と聞かれ。
「そうみたいです」
と私が答えると、
「車に乗れ、送ってくから」
と先生の優しい一言。
それに私は甘えた、もうきつくて歩きたくなかった、家まで車だと楽で……。
静かな車内……いつもの香水の香りが私を包む。
あっくすり……。
その時、家に薬がない事を思い出し。
「先生お願いがあるんですけど……ドラッグストア行ってくれませんか?」
ぼーっする視界の中、先生に言うと。
「木下、大丈夫か?」
と顔を覗いてくる。
「大丈夫です」
と答えたけど、咳まで出て来て、完璧に風邪だと思った。
するといきなり、冷たい手が私の額をさわった。
ひんやりして気持ちがいい。
「大丈夫じゃないじゃないかぁ、これはかなり熱あるぞ」
先生の声が、ぼんやりとした意識の中で聞こえる。自分でも熱いとは、なんとなく気付いていた……。
「ですね……」
私は自覚をしたからか、なんだか全身の力が抜けた気がした。ちょっと目を閉じて黙る。そして、停まった車。
「ちょっと、待っとけよ」
と言って先生は車を降りた。
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