*…触れたくて…* #2

31/34
前へ
/35ページ
次へ
 亜紀はベッドに膝を抱えて座っている。シンは隣りに座った。  少しの間、沈黙が続く。  亜紀は抱えている膝に顔を埋めて、話しだした。 「私ね……シンの事好きなのに、嫌なの……想像しちゃうの」  声が震えている、 「洋子先生との事……」  静かな部屋、亜紀の声だけが聞こえて。 「馬鹿でしょ私。シンが洋子先生を抱いた場面を想像しちゃうの……どうしてそういう事をしたのかとか……シンがどういう風に触った……のかとか」  自分のした事の罪の重さを改めて実感する、どうしたら彼女は許してくれるのだろうか。 「ごめんなさい……」 「亜紀が謝る事じゃない。全部俺が悪い」 「ううん、私があんな事にこだわっているから」  顔を上げた亜紀の頬には、いくすじも涙のあとがある。次々と流れては落ちる雫。  何も言えない……話し合おうと言ったのは自分なのに、シンは何も言えなかった。  どうしたらいいのか、わからなかった。  ただ視線だけが絡まる……息をするのが苦しい、泣いている姿を見るのが苦しい。 「ごめん」  そう視線をそらすのが、精一杯だった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加