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「亜紀……」
「本当は嫌だよ。でも、私……友達とかにもシンが教師だって言いにくいんだもん。軽蔑されないかって、シンが変な目で見られないかって……怖かった」
自分にはシンを幸せにすることは出来ないんだろうか、なんでこんな見えない壁ばかりなのか。
麗子にはやっとの事で言えた。でも、明智や智也には言えずにいる。
こうなる事が、ずっと怖かった。
そして、その場に立たされた今……自分に出来る事は1つしかないとすぐに分かった。だから、口をついて『別れ』がでてきた。それはシンを大好きだという証拠……証。
亜紀はこの場所から、1秒でも早く居なくなりたいと思い。足を3歩ほど進めた。
このままここに居ると、弱い自分がでてしまう。
「待って……」
立ち去ろうとする亜紀の背中に、斉藤が声をかけた。亜紀の足はピタリと止まる。
涙が止まらない……悲しいから? 怖いから? 悔しいから?
心の中は、感情が混ざりあい、黒く重くなっていく。
「なんでそんなに泣くんですか? なんだか私が悪者みたいじゃないですか」
そう言い、斉藤は話しを続ける。
「悪い事してるのは……貴方たちの方なのに、なんで泣くんですか? なんで私がこんな気持ちにならなきゃいけないんですか?」
斉藤の瞳には涙が溜まっていた。シンはそれを見ている事しか出来なかった。手の中にある温かいものをギュッと握り締めて。
「ごめんなさい……」
亜紀のか細い声……。
「謝らないでよ!」
斉藤の瞳から涙が流れる。
「本当は、先生の事大好きで本当に尊敬してた……でも、貴方と付き合っている事を知って、凄くショックだった。なんだか裏切られた気分だった」
風が3人の間をすり抜ける。
「なんで……こんな気持ちにならなきゃいけないの? 私は悪くないのに……」
「斉藤」
「なんで、こんなに苦しくならなきゃいけないんですか。私は間違ってない……」
「あぁ、斉藤は間違ってない。いけない事をしてるのは先生たちだ、それは自分でも良く分かっている。 亜紀と別れる気は俺にはない」
シンは亜紀の手を取ると、指輪を亜紀の手へと返した。
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