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春の日差しがさんさんと降り注ぐいつかの午後。まだ少し冬の余韻が残る中、僕は一人の少女と出会った。
「こんにちは、おはよう。」
どこか不思議な彼女は、僕の視線を一瞬で釘付けにした。遠くからでも目を引く濃密な存在感を放ちながら一歩一歩、確かに近づいてくる彼女。僕の足は動かない。僕の思考は働かない。
光を浴び、にこやかに笑む彼女の髪はとてもやわらかな色をしていて、ノースリーブの透けるように白いワンピースからはみ出した手足はとろけるような甘さを秘めていた。
えも言われぬ緊張でカラカラに乾いた喉は貪欲に水気を欲し、言葉と唾とを丸呑みにする。何とか逃れた言の葉が彼女に端的な疑問を投げかけた。
「君は、どこから来たの?」
「あっち」
彼女は指さした、自身の斜め後ろを。
「あっちって?」
「こっち」
彼女は手を差し伸べた、僕に向かって。
彼女の言う〝あっち〟には何があるのだろう。〝こっち〟と手を差し伸べてくれた彼女は、何を思って僕に近づいたのだろう。
結局思考は上手く纏まらず、僕を引っ張る小さくも力強い手に、されるがままに身を委ねたのだった。
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