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「アンタの方が年上だし呼び捨てはちょっと、いただけないんじゃないかと……せめて水野さんで、手を打ってほしいと思います。はい」
おどおどしながら答えると、ちょっとだけ顔を上げて、仕方なさそうに俺を見つめてくれた。相変わらず、への字口をしたままに。
「しょうがないなぁ。手を打ってあげるから、早速呼んでみて」
「み、水野さん、済みませんでしたっ!」
俺はうんと顔を歪ませながらだったけど、しっかり頭を下げた。つか、下げるしかないよな。この他の行動が、全然思いつかねぇよ。
そんな姿を見て満足したのか机からしっかり顔を上げ、ニッコリと微笑んでくれる。
――あれ、どういう事なんだ?
「やっと呼んでくれた、嬉しいな。俺の事を気にしてるクセに、突き放すような物言いするから、実は寂しかったんだよね」
「泣いて……ないんですか?」
「イヤだなぁ。男が人前で泣くなんてみっともない事、するわけないでしょ。さぁて次は、どの教室に行こうかな。理科室は、最後のお楽しみにとっておいて――」
「待てよ、水野っ。騙したな!」
「わ~、呼び捨てで呼ばれちゃった。すっごく嬉しいな」←棒読み
何故かスキップしながら、図書室から出て行く水野。
……ったく調子狂ってばかりでイライラする。わざと俺を苛めて、喜んでるとしか思えない。
もやしのようにヒョロヒョロした細い体を、恨めしげに見ていた俺。
この後、とんでもない事件に巻き込まれるなんて、夢にも思っていなかった。
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